毎日の文トレ

日々感じたことや考えたことを書き殴ります。

日本動物学会の公開講演会に行ってきた。

この前の土曜日のお話です。

「化石とゲノムで探る人類の起源と日本人の成立」というタイトルでした。

 

まずは、東大博物館から諏訪さんの講演。

 

印象に残っているのは、人類学の分野にはまやかし論文が、しれーっと紛れ込んでいて、悪名高きNatureなどに取り上げられたりするから、気をつけないといけない。ということ。

何が今まで常識とされていたのか、対立仮説は何なのか、といったバックグラウンドの知識が必要である。

 

例に挙がっていたのは、最近新聞記事にもなった、「アウストラロピテクス・アファレンシスのルーシーは、木から落ちて死んだ。」というNature論文について。

著者は、ルーシーの全身骨格を新しくctスキャンした結果、多くの骨がひび割れていたことが分かり(ぱっと見でも分かる)、それをお医者さんに診てもらいました。すると、それは、高いところから落ちた時にできる骨折の様子と似ているので、ルーシーは高いところから落ちて(猿も木から落ちる)死んだという論文を書いたということらしい。

しかし、多くの骨は化石化の過程でひび割れていくので、今までの研究者は誰もそれを骨折のせいだとは思っていなかったという背景がある。もちろん、骨折のせいなのかもしれないが、問題は、論文の著者はそのことについて何も触れていないということだ。あたかも新事実を発見したかのような論文であったが、実は、ルール無視のまやかし論文であったのだ。

 

あと覚えているのは、人類学の歴史の中で、ぼちぼちと古人類化石は集まりつつあるのだけど、猿と現生類人猿の共通祖先が存在したあたりの化石は非常に乏しいのだが、そこの化石を今、東京大学京都大学が勢力的に発掘していて、成果を出しているということだ。東大は、チョローラピテクス。京大は、ナチョラピテクスなど。

僕は、気になって、なぜ他の数ある大学の中から、東大京大だけが、うまいこと資料を見つけているのかと質問してみた。

返ってきた答えは身も蓋もないもので、「気合と執念です。あとは現地の人に昔から発掘関連の教育をしてきたのが非常にうまく回ってきた。」ということだった。

技術的な違いとかはないのかなあと思った。持ち運びできる巨大ctスキャンみたいなもので、地層丸ごとスキャンしちゃって、中に骨や歯があるか確認できたら、化石大量発見につながり、人類学の黄金期再びということになりそうなのだけど。

 

次は、国立科学博物館から篠田さん。

 

ゲノムから見た人類の移動や日本人の起源についての話で色々興味深い話が聞けた。

 

・一度、ユーラシア大陸に出た人類の中に、その後アフリカに戻ったグループがいて、エチオピアにいるらしい。この事実は、この前エチオピア人の友人から聞いた話とリンクしていて、彼はエチオピアの女性に顔はとてもヴァリエーションに富んでいて、他のアフリカ人とは全然違うと言っていたのだ。このことと遺伝子のグループの違いが関係していたら面白いなと思った。 

 

・東京の切支丹屋敷から出てきた骨がイタリア人の骨だと分かり、それが史実に残っていたGiovanni Battista Sidottiというイタリア人宣教師のものだと判明したらしい。種子島に行こうとしたのだが、間違って屋久島に着いてしまい、上陸後逮捕されたらしい。

 

・日本人の起源は、縄文人と、渡来人が混ざって出来上がったという二重構造説をぶち壊そうとした話。二重構造説の問題点は、日本列島に広がっている縄文人を均一な集団とみなしていること。結局のところ、本州の中でも関東と関西で縄文人の遺伝子グループは異なっていて、関西の縄文人の遺伝子の方が、現代日本人のゲノムに強く影響しているらしい。

 

・北海道には、縄文〜続縄文時代、7世紀から擦文時代、13世紀からアイヌ時代と変化してきたらしいが、続縄文と擦文時代の間に遺伝子構成が大きく変わっており、それには、5世紀から9世紀に存在していたオホーツク文化人という正体があまりわかっていない人たちの影響があるらしい。また、調べたところ、オホーツク文化では、クマを用いた儀式が盛んらしく、ヤングジャンプゴールデンカムイとリンクして、ワクワクした。

 

最後は箇条書きになってしまったが、篠田さんはとても早口で、情報たっぷりの濃い公演だった。あと、ところどころ笑かしてくるのが、さすが京大出身というところ。

 

そんなこんなで、13:30〜16:00まで、出てよかったと思える講演会でした。