優しい話
昔バイトしていたところで数学を教えている学生講師がいて、講師室で切羽詰まった高三生に質問責めにされていた。
「先生、京都大学に受かるためには、この参考書やった方がいいんですか?」
「うーん。これをやって受かった奴もいるし、やらなくて受かった奴もいるな〜」
「そうなんですね! ありがとうございます」
生徒は、憧れの先生からアドバイスをもらえて、嬉々として自習室へと帰っていた。
ただ、それだけの話なんだけど。
これってすごく優しい話だと思ったのだ。
結局のところ、このアドバイスはほとんど何も言っていないに等しいのだけども、生徒は、意識高いイベントで壇上の人に質問をした後の就活生のように喜んだのである。
つまるところ、生徒が求めていたことは単なる安心であって、先生の対応としては間違っても、「やってもやらなくても一緒なんだから、今やってる参考書をしっかりやれ」と言ってはいけないのである。
そういう痛いところをつかずに、即座に当たり障りのない返答をすることができるその講師はやはりキレ者だと言えよう。